久しぶりのシューズレビュー、そして考察記事。
今回は「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」です。
ランニング界隈だけじゃなく世間も騒がせた厚底シューズについて、実際に履いて走った体験レビューと感想、またヴェイパーフライをはじめとする厚底シューズに対する「シューズの是非」についてアレコレ考察していこうと思います。
ヴェイパーフライの特徴
まずはナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%のテクノロジー的な特徴を簡単にご紹介します。
カーボンプレートの推進力
ヴェイパーフライというと「カーボン」とか「カーボンプレート」というキーワードをよく聞きますよね?
カーボンカーボン言うけど、カーボンの何がいいのか?
ヴェイパーに採用されている「NIKE ZoomX」をいうフォームに挟まれるようにカーボンファイバー製のプレートが埋め込まれています。これにより脚を前に押し出す感覚が生まれます。
この「脚を前に押し出す感覚」が超重要!
「勝手に脚が前に進む」ということです。
勝手にですよ?
すごくないですか?
推進力をサポートする反発力
ヴェイパーフライのスピードを支えるのが、ミッドソールの反発力。
NIKE ZoomXという反発力に優れたフォームが採用されていて、高い反発力でカーボンプレートにより生まれた推進力を落とすことなくスムーズに前に進む力に変えてくれます。
ズームフライシリーズよりも厚い厚底シューズです。
厚底で存在感があるのに軽い
スピードを生む最後の理由が「軽さ」
ナイキシリーズの中では最も厚い部類の「厚底フォーム」なのに、シューズの重さは160グラム!ズームフライよりも約20グラムも軽いシューズなので、履いたときの重さは感じません。
・・・ということなのですが、体験レビューでもう少し詳しく説明しますね。
ヴェイパーフライのフォルム
ヴェイパーフライのフォルムを一言で表すと
「攻撃的なフォルム」
って感じです。
あくまで僕の感想ですけど。
圧倒的な厚底の存在感に
かかとの挑戦的なトンガリ!
今までのナイキシリーズの中で、一番とんがってます。
そしてアッパーのシューレース(靴紐部分)が謎の斜め!
この斜めの靴紐アッパーに何の意味があるのかは不明ですが、速く走るために開発され尽くしたシューズです。何か理由があるのでしょう。
フォルムを見ると「イカツイ」感じで、
速そうというか「強そう!」
って印象です。
ヴェイパーフライで走った感想(体験レビュー)
ここからはナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%で実際に走った感想と、フルマラソンで走るとどうなるか?についてご紹介します。
勝手に脚が前に出る!
ナイキズームフライ フライニットのときは
「勝手にスピードが出る」
と表現しましたが、
このナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%は
「勝手に脚が前に出る!」
という感覚です。
頑張って前に進もうとしなくても、ポーン!ポーン!という感じで勝手に前に進んでいくんですよね。
この感覚は斬新だし、正直すごい!
走っている時に、スピードの出しやすさがハッキリと実感できました。
僕もラン歴10年の中でいろんなランニングシューズを履いてきましたが、ここまで変化を実感できるシューズは今までなかったんじゃないかな?ってくらい変化のわかるシューズです。
キロ10秒は速く走れるようになる
スピードが出しやすいというのは、マックススピードがアップするというわけではありません。「スピードが無理なく楽に出しやすくなる」ということです。
たとえば、
今までのシューズで僕がキロ5分で走ろうとすると、体感的に70%くらいのパワーが必要でした。ヴェイパーフライを履くと60~65%くらいで済むという感じ。
こちらはヴェイパーフライを履いて練習で16km走ったときのラップタイムです。
僕は普段の練習では、かなり頑張ってキロ4分45秒前後くらいなのですが、ヴェイパーフライを履いたらキロ4分45秒はそれほど大変ではなく。終盤の2kmではキロ4分10秒台で走ってます。4分10秒台なんて練習ではありえないタイムです。
楽にスピードが出るようになるのは間違いありません。
この楽にスピードが出せる感覚も長距離を走るうえでは重要です。
楽にスピードが出せるから体の疲れが出にくい
楽にスピードが出せるということは
「体の疲れが出にくい」
ということ。
もう少し言い換えると
「体力を温存できるので、いつもどおりのペースで走っても終盤で体力が残っている」
ということが言えます。
フルマラソン以上を走ったことがあるランナーならわかると思いますが、距離が長くなればなるほど、体の疲れも重要になるんですよね。脚は残っているのに体の疲労が出てペースが上がらない!なんて経験は誰でもあると思います。
その「体の疲労が出てペースが上がらない!」を先送りしてくれるのが、ヴェイパーフライの本当の凄さじゃないかな、と実感してます。
実際にヴェイパーフライでフルマラソンを走った結果を以下のページでまとめてあります。興味がある方は合わせて読んでみてください。
普通のシューズとは違う箇所に負担が出るかも
ひとつ、懸案事項があるとすれば
「いつもとは違う箇所に負担がかかってるかも」
ということ。
脚が勝手に前に進む、
違う表現をすると
常に前傾姿勢っぽくなる
ということだと思います。
前傾姿勢っぽい感覚になるかどうかは個人差があると思いますが、あえてオーバーな表現をすれば「強制的な前のめり走法」となるわけで、普段の走りとは違う部分に負担が出るかもしれませんね。
実際に、僕はヴェイパーフライを履いて走った「国宝松江城マラソン2019」のあとに、しばらく股関節とか膝裏が痛くなったりしました。今までには発生しなかった箇所の痛みです。
厚底と反発力で負担はかなり軽減されていますが、スピードの出しやすさと引き換えに、負担は大きいかもしれません。
厚底シューズなど技術革新の是非について
さて、ここからはシューズの是非についての考察です。
※2019年~2020年にかけて話題になった時期の考察です。
ナイキヴェイパーフライは、久しぶりにスポーツ界に一石を投じた話題のシューズになったのではないでしょうか?
トップ選手もアマチュアランナーも、履けば速くなる。2019年の全日本大学駅伝や2020年お正月の箱根マラソンでは、どの選手もヴェイパーを履いて区間新記録を連発してましたよね。
選手の成長もありますが、区間新が連発し、チームタイムの新記録が連発したのは明らかにヴェイパーのおかげです。これは間違いありません。
この
「履けば誰でも速くなる」
というのが、今回ここまで話題になったポイントだと思うんですよね。
今まではシューズの合う合わないがあった
今までのシューズって、人によって合う合わないがあったんですよね。
例えば「adizero Japan」
当時の世界記録保持者だったゲブレセラシェをはじめ、トップ選手がバンバン好記録を出すので話題となりました。僕も履いたことがあるし、実際に「いいシューズだなー」と感じたのですが、それでも周りの賛否はさまざまで、あまり速くならないという人もいれば、asicsやmizuno信仰みたいのもまだまだありました。
だからadizero Japanについては、ヴェイパーほどシューズの是非についてホットにならなかったんだと思います。誰でも速くなるわけじゃないし、他メーカーのシューズもまだまだ人気だからいいか、みたいな。
固定概念を打ち破ったナイキがすごい!
僕はマラソンをはじめて10年以上になりますが、当時はまだまだ「薄底偏重」みたいのがあったんですよね。「初心者はクッション重視の厚底、速い人は軽さ重視の薄底」といった感じで。
当時というか、ナイキの厚底シューズ「ナイキズームフライ」が登場して人気になるまでですかね。ズームフライが人気になっても、人によってはまだまだ厚底を認める人はいませんでした。「あれはケガしやすい」とか、根拠のない情報も目にした記憶があります。
でも、
そんな薄底偏重の常識を打ち破ったナイキってすごくないですか?
薄底こそ正義。各メーカー、薄底を基本としてどれだけ速さを追求するかの方向に舵を切っていたのに、真逆の厚底に注力してスピードを求めるとか。
もちろん、ここ数年は昔のようなペラッペラなソールはなくなってきてはいたけど、でもどんなシューズよりも厚いソールを使ってスピードを求める概念なんて、他のメーカーにはなかったと思います。
真逆の方向に進み成功したナイキ。
一人勝ちするのは当然ですよね。
選手が走るのか?シューズが走るのか?
で、みんな速くなっちゃうものだから、ひとつの議論が巻き起こるわけですね。
「シューズの力で速くなっていいのか?」
と。
この議論が大きくなってきたとき、僕は水泳の「レーザーレーサー」という水着の件を真っ先に思い出しました。
2008年のオリンピック前。レーザーレーサーを着た選手が世界記録更新を連発。水着の是非が話題となり、北島康介さんが「泳ぐのは僕だ」という抗議のTシャツを着たことも話題となりました。
結局、北島康介さんもレーザーレーサーを着て北京オリンピックに出場、見事金メダルを獲得するのですが、その後、水着には一定のルールが設けられました。
選手なのか?道具なのか?
道具の進化で記録が更新されていいのか?
記録更新に大きな影響を及ぼす技術革新の前に、必ず出てくる話題なのかもしれませんね。
スポーツはルールがあるからこそ面白い
僕自身の考えで言えば
「道具の進化で速くなってもよい」
と思っています。
と同時に
「突出する何かが出てきたら、ルールで均衡化を図るべき」
とも思ってます。
なぜなら
「スポーツは、ただ強い人が勝つのではなく、時代時代のルールに最も適応した人が勝つものである」
と考えているからです。
道具の進化による記録更新に難色を示す人は、今までの道具の進化、道具が進化する過程における人の適応力はどう考えるのでしょうか?アスリートの力のみなら、それこそ裸足で走れば皆平等です。
でも、ルールもなにもない無差別な競技に、アスリート自身の進化や感動などは生まれません。
- 接戦になるルールがあり
- ルールのもとで人が進化し
- ルールのもとで道具が進化し
- 人と道具の融合でさらなる記録が生まれる
だからこそスポーツは面白いのだと思います。
厚底シューズはズルいだとか、規則違反(当時)だとかの批判はナンセンス。特に市民ランナーに向けての批判はよくわかりません。
規則の範囲内であるなら、テクノロジーの進化による大幅な記録更新も全然ありだし、むしろどんどん使ってさらなる進化を見てみたいです。
スポーツにおいて「規則の範囲内」というのが重要です。
シューズの進化が楽しみ
2020年10月現在、厚底シューズにもいろいろな規定が設けられています。誰でも速くなる現状や世間の話題性の高さを鑑みてのことでしょう。
スポーツはルールがあるからこそであり、ルールがあるからこそ接戦になり、そこに携わる人達は切磋琢磨します。
欧米では、一人の突出する選手が出て勝ち続けると、ルール改正をして力を均衡化します。日本では馴染みのない文化ですが、僕はそれこそがスポーツだと思ってます。
なので、シューズのルールの規定や改定は賛成だし、そのルールの中でアスリートもシューズメーカーもまた切磋琢磨すればいいと思います。
ナイキの厚底からはじまったシューズ革命。
今後どのような変遷をたどるのか、ランナーとして楽しみです。